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動物行政のパラダイム
その代表的な例が、最初に紹介した、兵庫県動物愛護センター。
保護された動物たちにできる限り生存の機会を与えるとともに、動物たちと『ともに暮らす』ことを、普及・啓発するために作られた施設で、保健所の管轄下ではなく、独立した組織となっています。
平成5年施行の県条例『動物の保護および管理に関する条例』に基づいて、動物愛護を一層推し進めるべく計画されたこの施設。阪神大震災で、一旦は頓挫しかかった計画だそうですが、「今だからこそ、動物愛護が必要だ」との判断で、平成10年に設置されました。
このセンターの最大の特徴は、バックボーンとなる法律が『狂犬病予防法』だけではなく、平成12年に施行された『動物の愛護および管理に関する法律』に基づいた活動を前面に押し出して活動している点。
同センターの主な業務は、阪神間(芦屋市、宝塚市、伊丹市、川西市、猪名川町)の保健所の動物管理業務と、兵庫県全域での動物愛護に関する部分全般。
もちろん、従来の保健所の役割も果たすため、不要動物の引き取りは行っているし、その一部を除いては殺処分されているのも事実。しかし、この部分においても、従来の保健所とは一線を画した活動を行っています。
動物の引取りを希望する人に対して「何とか飼い続けられないか?」というアプローチも積極的に行っているし、「野良犬・野良猫が増えて困るなら、その原因から取り除こう」という努力もしています。
たとえば、こんな例があります。 頻繁に猫を持ち込んでは、「野良猫が増えて困る…」とこぼす人がいて、何度か話す中で、その原因が隣りの魚屋にあることがわかった。
そこで、センターでは、保健所と連携して、魚屋に対してゴミの出し方を指導したといいます。 これが、この施設の最大の強み。
従来の狂犬病予防を主とした動物管理では、出来なかったことが『動物愛護』という部分をバックボーンにすることで、初めてできるようになったのです。
また、引き取られた動物たちの取扱も、これまでとは決定的に違います。それは、引き取られた犬たちのうち、譲渡可能と判断した犬たちを、新しい飼い主に譲渡している点です。
成犬の場合は、元の飼い主の飼い方からか問題行動などがある場合も多いため、譲渡が出来にくいそうですが、それでも、健康面・性格面をチェックした上で、新しい飼い主への譲渡を行っているそうですし、子犬に関しては、2〜3ヶ月程度の月齢から、積極的に来園者との『ふれあい』に参加させ、社会性を身に付けさせた上で、4ヶ月程度までセンターにおいて、駆虫・ワクチン接種・基本的なしつけをして、その大部分が、新しい飼い主さんに譲渡されています。
また、動物とのふれあいをはじめ、普及・啓発活動にも積極的で、子供会や学校の遠足でやって来る子供たちに、命の大切さや動物との接し方についてのお話をしたり、一般向けにワークショップや飼い方・接し方の講座を開いたり…。
また、センター外でも、学校や子供会の集まりで同様のお話をしたり、自治会を対象に「マンションで犬を飼う方法」についての講習なども、積極的に行っています。
昨年の実績で言うと、センター内での開催は79回、延べ3千人以上が参加していますし、センター外での事業も30回を数え、実に6千人以上もの方が参加されています。
その他にも、センター内にはしつけ教室専用の屋内スペースや音響・パソコン・映写装置等を備えた大小のホールもあり、さまざまな団体やサークルが活動しています。
一般参加も可能なしつけ教室は、昨年1年間で161回も開催されていますし、シンポジウムなどにも頻繁に利用されています。
でも、やっぱり問題が…
ただ、ここでも問題になるのは人間の側。
動物園や遊園地代わりにやってくる人、ふれあいコーナーで「噛まれるで!」「きたないで!」なんて悲鳴をあげるお母さんも、実際には多いらしい。
また、犬の譲渡を希望する人の中にも「子供が欲しいって言うから…」とか「犬でも飼おうか…」「犬がタダでもらえる」程度の考えで来る人が多く、「彼らの命を引き受けよう」という覚悟のない人がほとんどなのが悩みだとか…。
そのため、子犬を希望する方、一人ひとりに面接をして「この人なら…」という人に譲渡しているそうです。
また、飼い方の指導等についても問題はあるように思います。いくら『動愛法』が整備され、動物愛護を前面に押し出したからといっても、行政の仕事には限界があると思うのです。
たとえば、とんでもなく犬を虐待する人がいたとして、その飼い方に対する指導は出来ても、犬を飼うという行為自体を禁じられるわけではありません。
また、「犬が嫌いだ」という人は確かにいるわけで、その人たちに「動物との共存」を強いるわけにも行きません。
犬との付き合い方・犬に対する価値観は人それぞれ違うものです。
伴侶・家族として付き合う人もいれば、危険な猛獣と見る人もいます。溺愛しすぎて周りが見えない人もいますし、ブランド品のように思う人もいます…。
そんな人に対するアプローチは、極端な例を除いては、あくまで、指導や普及・啓発の域を出ることはありません。
もし、それ以上踏み込むのなら、それは行政の枠をはみ出したモノになってしまうのです。
『動愛法』やこのセンターが、本当に力を発揮するためには、我々の意識改革も必要なのではないでしょうか。互いに配慮し、思いやり、そして認め合うこと…。それが必要なのではないでしょうか。
そして、それらが欠如しているからこそ、今の犬を取り巻く問題がなくならないのだと思います。
また、これだけの施設だから、動物愛護に携わる、いろんな団体やサークルの活動拠点・情報集積基地としての機能を十分に持てると思うんです。犬が好きで、犬の団体に携わっているからこそ言えるのですが、行政を敵視し、連携しようとしない団体がなんと多いことか…。
折角、行政が本腰を入れて「動物愛護」に乗り出そうというのだから、これを利用しない手はないですよ!
NGOを締め出した、どこかの小役人感覚のセージ家さんみたいなこと言っててはダメ。
こと、動物愛護に関しては、互いの連携は必須だと思います。行政と市民、市民と市民、地域と市民、地域と行政…、お互いの理解と思いやりがないと、解決しない問題が山積しています。
その困難な部分に、行政が踏み込もうとしていることは確かなのだから、私はこの試みに対して、素直に、心からのエールを送りたいと思います。
今回の取材を通して、動物行政の新しい未来が垣間見えたような気がしました。
ただ、このようなセンターは全国に数えるほどしかなく、大半は、従来の保健所業務を行っていますし、このセンターが出来たことによって、殺処分数が激減したわけでもありません。
今も私たちは、毎年何十万頭という命を、殺しつづけているのは事実なのです。
このセンターをはじめ、さまざまな動物愛護への取り組みが十分な効果をあげ、そして、日本の動物行政が、この方向に動くことを期待したいと思います。
最後に、このセンターで働く皆さんが、「オレたちのやりたかったことはこれなんだ」と言わんばかりに、嬉々としてお話をしてくださったように見えたのは、きっと気のせいではないと思います。
殺されるために生まれてくる…、そんな悲しい命がひとつでも減る事を心から願っています。そして、その努力は、我々人間にしか出来ないのです…。
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