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イントロダクション01
今から数年前。加古川の河川敷でアジリティの体験会をして遊んでいるところに、署名活動に協力してほしいと来た人がいる。
当時は、今と違って犬飼いは犬頭の奴が多かったんで、めずらしい者が来るとワラワラと側に寄っていって全員でクンクン臭いを嗅ぎだす。
「署名っ何の署名や?」
「ドッグラン設置の署名です」
「ドッグラン?犬の競馬かぁ?」
加古川なんて町は、じつに中途半端な町で田舎でも都会でもない。都会的な物流に恵まれた上に土地は余っている。犬と散歩するコースなんてのは車を少し走らせればいくらでもある。そんな犬飼いの天国のような加古川でドッグランなんてことに積極的に興味を持つ奴なんていなかったし、だからもちろんドッグランが何たるかなんて誰も知らなかったのは無理もない。
「外国の方ではドッグランっていう犬専用の公園があって、そこでは犬を自由に遊ばせることができるんです」
「へぇ、犬を自由に遊ばせることができるのかー。それエエやんか」
「アジするときも、いちいち行政に屁理屈かまさんで済むんなら便利かもね」
「じゃ、ここに署名してください。この署名をもとにドッグラン設置にむけて僕達は動きたいと思っています」
河川敷でアジリティの体験会を開催していた当時の僕らは、その場所の確保で多少イライラしいた。「公共の囲いもない場所で犬を放して大丈夫なのか?」と行政に問われ、その度に犬についての屁理屈を言って場所を確保する。
当時は今ほど犬と暮らすということがマスコミとかで露出してなかったので、「吼える犬をクサリで繋ぎとめて飼う」というのが犬の飼い方だと思われていることも多かったからだ。そんなイライラに「犬を自由に・・・」というフレーズが夢を与えた。
「じゃ、俺は署名するわ」
「じゃ、私も」
それを横目で見ていたワシは噛み付いた。
「けど、ドッグランができたとしたら、何がどうなる?都会ではどうか知らんが加古川では行政は今犬の放置ウンコとかの問題が浮上してきている。これはそのうち大きな問題になると思うけど、行政にとっては願ったりもないことだよな」
「へ?西鶴さんは何が言いたいの?」
「いや、ドッグランが世間の意識の底上げのないままできたら、犬はドッグランへ行け!ってことにならないかな?今でも公共の囲いのない場所でって言われてるのを無理やり開催してるわけじゃない。ドッグランができたら、たぶんドッグランへ行けって言われるよ」
「なるほど、そうかもな。囲いのない場所でやってるから、口コミで今みたいな参加者の人数になったわけだし、自分の犬がアホだと思ってるアホな飼い主が開眼した実例もある」
「そう、世間を大手を振って歩けるためには犬飼いは外にでなきゃならない。どこにでも犬を連れていかなきゃならないし、どこにでも犬を連れていけるようにしなきゃならない」
「ちょっと待ってください。署名はしてもらえないんですか?」
「署名するのは自由だけど、ワシはしない。ドッグラン設置の意図がイマイチ理解できないし、たとえドッグランができてもワシは行かない。ドッグランに行かない悪い犬の飼い主、公共の場を我が物顔で犬と歩く悪い飼い主がワシのスタンスや。楽してそこにある未来ほど恐いものはない」
「たとえば、今。公共の囲いのない場で開催してるこの体験会。そこにはたしかにリスクがあるがそれをクリアすることに犬飼いの未来はあると思う。リスクを避けてドッグランという囲いの中に逃げ込むのは簡単だがそれではいつまでたっても問題は解決されない。あんたもドッグランの署名の前いここで遊んでいったらどうや?犬は連れてきてないのか?」
「あ、ウチの犬は他の犬見るとガウガウしちゃうんで家でケージに入れてます」
「・・・・・・・・」
一同唖然・・・ちゃんちゃん。
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