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仮想対談/プロVS西鶴
犬の本能

プロ/犬は繁殖の本能が強い。だから雄犬は私達プロでも繁殖期には手こずるんです。

西鶴/つまり、言うことを聞かないということかね?

プロ/そう、呼びがきかないとかあります。本能には勝てないってところですね。(笑)

西鶴/それは違いますね。呼びも本能の「ある一つの形」ですよ。

プロ/は?呼びは本能とはまた違うもんですが…。

西鶴/いや、それは間違い。
犬は、いや人間もそうなんですが、まず社会性に密接なつながりがある本能が一番にあるんです。
仮のそれを「存在本能」と呼びましょうか。そしてその存在本能の上にいわゆる欲求といわれる本能、
つまり食欲、性欲、海水浴が乗っかっているんです。

プロ/海水浴は間違いでは…?

西鶴/つまり、優先順位があるんですよ、本能にはね。
食欲だけ満たされてもその食欲は何のために満たされなければならないと思いますか?

プロ/それは何か食べなければ死んでしまうからでしょう。

西鶴/そう、生きていくには食べなければならない。
性欲は種の保存のため。でもなぜ種を保存したり、生きていかなくてはならないの?

プロ/そんなことは関係ないんじゃないの?今は訓練の話でしょ!

西鶴/(いきなり顔色が変わる)ワシが考える訓練は、芸ではない!
生きていくことなんだよ。
だからこの問いが答えられないプロはプロではない!商売上の肩書きでしかない。

いいですか、生きていくということは、自分の可能性のことなんですよ。
つまり、生きていたらいろんな選択肢がでてきますよね。道を歩いていて右に行こうか左にいこうかみたいなね。

その選択肢はなるべく多いほうがいい。
犬が100匹いてその全員が右に曲がって崖から落ちて死んでしまったら何にもならないでしょ。
犬の群れを見てるとわかるけど、その群れのボス、アルファはNO2であるベータとまったく正反対の性格というか、
考え方をもっている。

これなんかもアルファの方法が間違っていて群れに危機がおとずれたらいつでもリーダーが入れ替われるように
なってるからなんだよ。

つまり犬にも人間にも未来に向かって生きていかなければならないという命令が誰かに下されている。
それが「存在本能」なんだ。
それは自己実現とか、種の保存とか、食欲とかの欲求という本能に時として姿を変えるけど、本質に変わりはない。

プロ/あの…呼びの話なんですけど。

西鶴/そう、呼びの話だね。
呼びがきかないということは、その犬があなたの指示に従っていては「存在の本能」が満たされないということなのさ。

つまり、あなたが率いる群れには未来がないと察知しているから、自分の子孫繁栄という選択肢を増やそうと犬はしているんだよ。

つまり、あなたがプロではないと犬がみきってるのだよ。

プロ/それは、失礼な言い方ですね。私には納得いかないな。

西鶴/よくあなた方はアルファシンドロームなんて病気みたいな呼び名をつけてますよね。
それでそんな犬の飼い主に犬を甘やかすななんて言ってますがね、甘やかすとかの問題ではないんですよ。

これは飼い主の生き方の問題です。訓練がちゃんと入っていても突然キレタみたいに人を噛んだり、逃走したりする犬も最近はよくいますが、犬は強制でも誘発でも言うことをきかないもんです。

その飼い主の生きていく資質を冷静に見てるんです。
「この群れの中で僕は生きていて選択肢、つまり未来はあるんだろうか?」と常に考えている。
しかし、その選択肢が少なくてもとりあえず命令はきいてくれますよ。だってその命令を聞くという選択肢がその犬にとって今のところ一番リスクが少ないからね。

でも機会を伺ってるんです。次の未来への選択肢が現れるのをね。

プロ/そんなことはないと思うなぁ、犬はあくまで人に従順なんですよ。ずっと昔から人は犬を飼ってきてるじゃない。

西鶴/犬を飼ってきたんじゃなくて、犬が一緒に生活してくれたんだよ。
ヒトも犬も存在の本能を持つ、群れる動物だから利益が一致してるだけ。
いや、一致していたと言い直そう。

今のヒトは、「社会」イコール「法律」や「ルール」や「マニュアル」だと勘違いしてしまっているからね。
今では、ヒトの生きようとする本能と犬の生きようとする本能の利益は一致してないなぁ。
だってあなた、プロなんて人の理屈から抜け出さないで訓練してるじゃん。
犬はちゃんとチェックしてるんだよ。

犬にいうことを聞いてもらいたければ、ヘンな首輪やエサやビシバシといったテクニックに走る前に何故?って疑問符を自分自身に向けてみなよ。

そしたら、自分が「動物としての人間性」に欠落している点が見えてくると思うよ。

いいですか、犬はあなたのリーダーシップ、生きていく姿勢を常に匂ってるんですよ。
それは自ら可能性の選択肢を一つでも多く増やしていくことなんだよ。
犬との暮らしにテクニックやコツなんて本当はないんだよ。

プロ/なんか私を否定してるみたいな言い方じゃないですか?

西鶴/プロっていう部分を否定してるんだ。じゃ、あえて教えてやろう、僕が「プロの犬飼い」としてね。

プロ/は?プロの犬飼い?

西鶴/ウチの犬はまったく訓練をいれていない。

プロ/ははは・・・それじゃ犬飼い失格じゃないですか。

西鶴/しかし、ちゃんとリードしてなくてもリードがあるかのごとく歩けるし、延々と店の前で待ってるし、居酒屋にも一緒に行けるし、電車にも乗れる。

なぜだと思う?

ウチの犬は子犬の頃から仕事にも遊びにも、どこにでも一緒に連れて行ったからだ。
そしてその共有する生活や時間が多いほど、犬は飼主とツーカーの関係になっていくんだよ。
そんな飼主との関係の生活の中で犬は自ら「ヒトの社会の中でわきまえる」というルールを学んだんだ。
自ら経験として学んだんだよ。

あえて誤解を恐れず言ってしまうと、「しつけ」や「訓練」とはこういった犬との関係を築くためのショートカットなテクニックにしか過ぎないのだ。

プロ/屁理屈だな・・・

西鶴/あなたには信じられないだろうが、ホームレスが飼ってる、いや一緒に暮らしていると言い直そう、その犬はなんらヒトに迷惑をかけずに生きていけるんだよ。一緒にリヤカーを引っ張るし、吼えることもないし、「マテ」のコマンドを言わなくても延々と待つことができる。

このホームレスは犬を飼ったこともないし、訓練なんてしたこともないんだよ。
あなたがたが偉そうにのたまう「犬を飼うセオリー」なんてのとはまったく無縁なんだ。

いいかい、本来犬は犬は、ヒトと暮らしてきた。飼われていたんじゃない。
ワニと、その歯の掃除をする小鳥みたいに、生きていく上での価値を交換しながらヒトと共に暮らしてきたんだ。
このホームレスみたいにね。犬は飼うもんじゃない、一緒に暮らすもんなだよ。

(某月某所にて)